世界各国の優れたアーティスト26組の作品に表れる子どものイメージが集結する「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」。大人の常識や伝統の枠組みにとらわれない子どもの創造性と、その多様な感覚をより知ってもらうための連載も5回目となりました。今回はパレスチナとアメリカ出身のスヘール・ナッファール&ジャクリーン・リーム・サッロームを紹介します。
スヘール・ナッファール&ジャクリーン・リーム・サッローム
《さあ、月へ》
2011年
実写/アニメーション
7分
スヘール・ナッファール&ジャクリーン・リーム・サッローム
ショートフィルム《さあ、月へ》の主人公アッセールは、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区に住む少女。海賊版のCDを懸命に売って家計を助けています。しっかり者の彼女は、夢見がちな一面をもっています。瓦礫の中から拾ったセロファンをのぞくと、周囲の景色は一変、戦争によって破壊された町の上空に美しい虹がかかり、イスラエルとパレスチナを分断する重苦しい分離壁はピアノの鍵盤に変わります。
そして家に帰った彼女は、ポップスターに大変身。空想の舞台でスポットライトを浴び、歌って踊ります。幼い弟が彼女の観客。まだ歩けない赤ちゃんだけど、ハイテンションでステージを盛り上げています。
こんな風に想像の世界の中で憧れの人物になりきった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。物やお金がなくても、想像の力ひとつで別世界が広がる感覚を、この作品は私たちに思い出させてくれます。
本展の会期中の7月8日に、パレスチナ自治区のガザ地区へのイスラエル軍の攻撃が始まり、多くの死傷者が出ています。1日も早く戦闘が収まり、アッセールのような子どもたちが安心して暮らせる日が来ることを望むばかりです。
文:荒木夏実(森美術館キュレーター)
<関連リンク>
・「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)
・1分で読む!「ゴー・ビトゥイーンズ展」
(1)ジャン・オー《パパとわたし:No.29》
(2)金仁淑《ひいおばあちゃんと私》
(3)ストーリー・コー《Q&A》
(4)梅佳代《女子中学生》
(5)スヘール・ナッファール&ジャクリーン・リーム・サッローム 《さあ、月へ》
(6)リネカ・ダイクストラ 《女の人が泣いています(泣く女)》