2014年7月5日、昨年公開されて話題になったドキュメンタリー映画『ハーフ』((2013年/日本/87分 監督:西倉めぐみ、高木ララ)の上映と、出演者の矢野デイビット氏、須本エドワード氏を迎えてのアフタートークを行いました。
矢野デイビット氏
「ハーフ」という言葉にみなさんはどのようなイメージをお持ちですか?「半分」という意味合いではなく、よりポジティブに聞こえる「ダブル」を使った方がよいという意見がある一方で、もはや和製英語として定着しているので気にならない(須本エドワード氏談)という声もあります。
この「ハーフ」という日本だけで使われる呼称、すなわち日本人と外国人の両親をもつ人々をテーマにした映画『ハーフ』は、生まれも育ちも異なる5人の「ハーフ」を取材したドキュメンタリーです。オーストラリアで生まれ育ち、日本での生活を経験するために来日したソフィア、生後6年間をガーナで過ごした後日本で育ったデイビット、日本人の父とメキシコ人の母のもと、日本で小学校に通うアレックス、ベネズエラ人の父をもち、アメリカの大学を卒業後日本を拠点に働いているエド、日本人に帰化した韓国人の父をもつふさえ。それぞれが、いじめや差別を含む葛藤の記憶について、そして現在の活動、今後の展望などについて語っています。ハーフである当事者の姿に迫ったこの貴重な記録は、日本においてハーフの置かれる環境について考えさせられるとともに、「日本人とはなにか」という問いを見る人につきつけます。そこには「アイデンティティーの模索」というすべての人に共通するテーマが存在しています。
そしてアフタートークでは、映画に出演している矢野デイビット氏と須本エドワード氏による対談が行われました。ミュージシャンやタレントとして幅広く活躍する矢野氏は、ガーナの子どもたちを支援するためにEnjije(エニジェ)という組織を立ち上げ、彼のもう一つの故郷であり母親が住んでいるガーナに学校を建てたり、教育者の指導を行う活動を続けています。矢野氏は資金を全額提供するのではなく、地元の人々による資金調達を援助する方法をとり、あくまでも地域が自立的に事業を続けていくことを望んでいます。そのためにも、子どもたちの運動会やサッカーなどのイベントを開催して周囲の住民の参加を促し、地域ぐるみで教育環境を整えていく仕組み作りを工夫しています。
須本エドワード氏
一方、須本エドワード氏は、2006年に「ミックスルーツ・ジャパン」を設立、多様なルーツをもつ人々をつなげる活動を行ってきました。兵庫県西宮市で育った須本氏は、地元の公立学校ではなく神戸のインターナショナル・スクールに通い、その後アメリカの大学に進学したため、育った町に対して「コミュニティー」としての帰属意識が希薄だったといいます。ミックスルーツの活動を通して自分の居場所がみつかった気がすると語る須本氏。日本における多文化共生の方法を探るべく、大学とも連携しながら討論会やワークショップを数多く企画しています。
2人に共通して感じられたのは、ポジティブな姿勢と行動力です。外見の違いによる差別や家庭の不和などの困難を乗り越え、自らの中にある多文化を最大限に生かして社会とつながっていく、その発想の転換と前向きな力は私たちに勇気を与えてくれます。周囲との差異を意識せざるを得ない環境で育った彼らだからこそ、保守的な地縁血縁とは異なる新たなつながりの形を「発明」できたのではないでしょうか。
「居場所」がないこと、孤独であることは、現在の日本社会全体に共通する大きな問題だといえます。矢野氏や須本氏が提案する人とのつながりや支え合いは、今後ますます必要になることでしょう。日本に生まれる赤ちゃんの30人に1人が外国人の親をもつといういま、より開かれた、多様性を認める社会の実現のために私たちが考えるべきことはまだまだありそうです。そのヒントを得ることのできた、有意義な時間でした。
アフタートーク会場の様子
アフタートーク終了後、「ゴー・ビトゥイーンズ展」担当キュレーターの荒木夏実(中)、矢野デイビット氏(右)、須本エドワード氏(左)
文:荒木夏実(森美術館キュレーター)
撮影:田山達之
<関連リンク>
・「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)
・「MAMプロジェクト021:メルヴィン・モティ」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)
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7/18から公開「子どもキャプション・プロジェクト」
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