4月23日(土)、森美術館に入ると「ドンドン」と展示室内ではあまり聴きなれない大きな音が響きわたっていました。人の足音や映像作品の音しか聞こえないはずの空間で、いったい何が行なわれているのでしょうか?祭りでも開催されているような勇ましい太鼓のリズムに、お客さんたちも引き寄せられるように集まってきます。それでは、中の様子をちょっと覗いてみましょう!
1人の外国人男性と5人の日本人女性で構成された源流芝太鼓連の皆さん
会場では、ねじり鉢巻に法被(はっぴ)姿の太鼓奏者によって、「祭り太鼓」や「勇み打ち」など7曲の演奏が30分間続きました。曲のタイトル名を聞くだけでも元気になりそうですが、実際にその音色を聞いていると、それまでの低調な気分が晴れわたるような、爽快な気分になります。
このプログラムは、「MAMプロジェクト014」で紹介しているアーティストの田口行弘さんが、展示中の作品《モーメント:パフォーマティブ・ヒルズ》のために企画したものです。和太鼓の演奏には、港区を拠点に活動する源流芝太鼓連の皆さんに協力いただきました。
展示室の壁も太鼓に早変わり!?
対象物を少しずつ動かし、1枚1枚写真撮影するストップモーション・アニメーションの手法を用いた《モーメント》シリーズの一環として、《パフォーマティブ・ヒルズ》は約2ヶ月かけて制作されました。ベルリンより一時帰国した田口さんが、六本木ヒルズに毎日のように通って制作した本作では、森美術館の既存の白い壁から剥ぎ取られた木製のパネルが美術館の展示室を飛び出し、時には大きな蜘蛛の彫刻《ママン》がある広場内に整然と並んでオフィスワーカーの出勤を出迎えたり、日本庭園の芝生の上で巨大な「スマイル・マーク」のような笑顔を作ったり(52階の展望台からようやく確認できるような大きさです!)、展示室内では卓球台に様変わりするなど、さまざまな空間を、形を変えながら移動しつづけました。
会場で、撮影の指示をする田口行弘さん
壁面パネルが六本木ヒルズの街の中で織り成した一連の変化とともに、和太鼓によるパフォーマンスの様子も作品の一部となり、現在展示されています。完成した5分の映像作品には約3,500枚の写真が使われています。驚くほどの枚数を撮影することで生み出されたパネルの動きを見ていると、まるで自らの意思をもっている生命体のようにも見え、観客と作品の境界線もいつの間にかこの生命体によって掻き消されてしまったかのようです。
日々違う表情を見せながら都市空間を旅した壁面パネル。パネルが動くことによって生まれるその場の変化は、普段あまり目が向けられない空間にまで見る者の意識をうながします。何気ない日常の出来事さえも、ひとつひとつが目に見えない因果関係でつながっているように感じさせる田口行弘の展覧会「MAMプロジェクト014:田口行弘」は、8月28日(日)まで開催中です。ぜひお見逃しなく。
(文:森美術館学芸部パブリックプログラム アシスタント・エデュケーター 白木 栄世)
<関連リンク>
・「MAMプロジェクト014:田口行弘」
会期:2010年3月26日(土)~8月28日(日)
・森美術館YouTube 田口行弘「MAMプロジェクト014」ダイジェストムービー