2010年10月26日(火)

二度と同じものは作れない。そこに意味がある「ネイチャー・センス展」制作の舞台裏 in MAMCナイト(2)

大きなスケールの新作に挑んだアーティストの栗林隆さんと、アーティストに大きな空間を提供したキュレーターの片岡真実。二人によるスライドトークは、挑戦の背景にある現代アートへの思想に話が及びました。


《インゼルン2010(島々2010)》を作成中の栗林隆

片岡:コンセプトを考えることもアーティストの重要な仕事ですが、それをどう形にしていくかという制作の実践プロセスも重要で、しかもなかなか大変な部分ですよね。

栗林:そうですね。イメージはしているんですけど、実際にやってみて思ったのは、物量も質量も空間の広さも、やっぱり大きくて。図面と現実とのギャップがすごかった。

片岡:今回の展覧会では、敢えて一人ひとりのアーティストに大きな空間を使ってもらいたいと考えました。アーティストが普段はなかなか作れないようなスケールの作品を作るということは、鑑賞する側にとっても日常では体験できない特別な空間の中に体をどっぷり浸らせることができるということ。

美術館というのはもともとは、既に存在している作品を収蔵・保存・展示する場所でした。しかし「現代美術館」というものができたとき、それだけでなく、新しいものを生み出す場、実験室のようなものであるという考え方が登場しました。ならば、森美術館のような大きな箱であっても、アーティストのアイデアを形にしていく実験的な場になることは可能かと。「美術館はどういう場であるべきか」ということを考えたんです。

栗林:日本の美術館ではなかなかそういうことをやらせてもらえない、というか、これまでやる機会がなかったし、僕は森美術館というのは、そういうことを最もやりそうにない場所だと思っていたんです。だから今回は周りの人たちの反響もすごくて、作品の良し悪し以前に「日本で!? 森美術館が!? よくこれをやらせたな」という感想が多かった(笑)。


大勢の人が栗林さんの《インゼルン2010(島々)》を上るとこうなります

片岡:ご本人の頭の中では、ドローイングの段階で今の作品空間が十分想像できていたと思いますが、イマジネーション上の空間をほかの人たちと共有しながら現実の世界に作り出していくというプロセスは大変でしたね。

栗林:一人で作っている作品もありますが、これほど大きなサイズのものを、これほど短い時間(※美術館内で作業できるのは10日間)で作るとなると、どうしても人の手を借りなくちゃいけない。すると当然、「自分はこうしたいんだ」ということをみんなに指示しなきゃいけないんですけど、ディテールはあまり関係ないのかもしれないと思いました。一番大切なのは作品の根本がぶれないことで、そこさえしっかりしていれば大丈夫だなと。

アシスタントの武藤さんに、「栗林さんはできるだけ作業をしないでくれ」と言われたんです。というのは僕が作業をしてしまうと、他の人の作業がとまってしまうので。僕は作業が好きなんですけど、自分のやりたいことをある程度我慢してみんなに指示を出さなきゃいけないというのは、初めての体験でした。


作品はどのようにメンバーの目に映ったのだろうか

会場からの質問:今回の大作は、展覧会終了後はどうなるのですか。

栗林:これまで手掛けた大きな作品は、ほとんど残っていないんです。でも今回の紙の作品《ヴァルト・アウス・ヴァルト(林による林)》は、どこか海外で展開したいと思っているので、アトリエに引き上げるつもりです。

片岡:山の作品《インゼルン2010(島々2010)》は、残念ながら壊すしかありません。実はそのご質問は重要で、今回の多くの作品は残らないんです。吉岡徳仁さんの《スノー》は羽毛を西川産業に返却するので、これも残せません。篠田太郎さんの《忘却の模型》は収蔵庫に保管できるかもしれませんが、《銀河 》は美術館の柱と一体化しているので残せません。そこが「美術館が実験室になれるか」ということなんです。

美術館を「物として残るものを見せる場所」だけでなく、「そのとき、その場所でしか感じられない、特別な体験ができる瞬間を作る実験室」と考えると、後でウェブやカタログで記録写真は観られても、やはり展覧会に来て実際に体験していただかないとわからないものがあるんです。会場で体験した方の記憶の中にしか残らない。そういうところにも美術の美しさというものがあるのではないかという気がします。

栗林:やはり新しいものを作れるのはアーティスト冥利につきます。それに歳とともに作品も変化するので、「同じものをもう一度作れ」と言われてもできないですし。ずっと同じものが残っていくのではなく、進化するような感じで、僕はいいと思うんです。
 

<関連リンク>
制作はドキドキの連続 ~栗林隆さんと片岡真実が対談~
「ネイチャー・センス展」制作の舞台裏 in MAMCナイト(1)

「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」

会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)

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カテゴリー:03.活動レポート
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