アーティストと一緒に小学校の校庭に木を植えたよ！《銃をシャベルに》植樹プログラムを開催

森美術館国際シンポジウム翌日から1週間にわたって行われた「ラーニング・ウィーク」の一環として、2017年2月15日、メキシコを拠点に活動するアーティスト、ペドロ・レイエス氏による《銃をシャベルに(Palas por Pistolas)》植樹プログラムを行いました。

2月13日の国際シンポジウムでは、「ラーニングとは何か？」を議論する中で現代美術館と観客の新しいあり方を再考し、特に社会問題により深く関わるアートの実践「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」に着目しました。具体的なラーニングの実践として、さまざまなプログラムを実施した「ラーニング・ウィーク」の中で、「社会をより良いものにすることを意識し、行動するアーティスト」に子どもたちが出会い、「社会とつながるアート」を実際に体験してほしいという願いから今回の企画が生まれました。

会場となったのは六本木ヒルズからほど近い港区立笄（こうがい）小学校です。参加したのは同校の4年生、62名。教室に到着したメキシコのアーティスト、ペドロ・レイエス氏は、子どもたちから元気なスペイン語の挨拶で迎えられました。穏やかな笑顔で応えるレイエス氏は、自身のプロジェクトについて話し始めました。

港区立笄小学校校長の野村正司先生とスペイン語でのご挨拶。

レイエス氏が2008年に始めたプロジェクト《銃をシャベルに》は、発砲事件の絶えないメキシコの街で、地元の店で電化製品を購入できるクーポン券と引き換えに市民から銃を集め、鋳物工場でシャベルに加工し、木を植えるというものです。これにより1,527丁の銃が集まり、1,527本のシャベルが完成しました。このシャベルは、世界各地の美術館や学校、文化施設へ運ばれ、現地の人たちの手で植樹が行われてきました。日本では今回が初めての開催となりました。

「今日、ここで木を植えることは、銃という恐ろしい道具が、新しい生命を生み出すものに生まれ変わること――。」子どもたちは、レイエス氏の語るメキシコの状況、プロジェクトの意味について聞き、それを理解しました。また、壊した銃をシャベルだけではなく、楽器に変えたプロジェクトの動画も見せてもらい、レイエス氏が社会問題に向ける鋭いまなざし、アイデアやユーモア、そして、生み出された作品の美しさに感激していました。

子どもたちとの対話が始まりました。

質疑応答を終え、子どもたちは自分たちで木を植えるのを待ちきれない様子。さあ、いよいよ、校庭へ！まずは、レイエス氏がシャベルで土を掘る様子を見せました。そして、子どもたちが協力し合いながら植樹をスタート。森美術館や造園会社のスタッフも見守る中、声を掛け合いながら一生懸命に作業を進める様子が印象的でした。校庭の3カ所に可愛らしい花を咲かせるハナミズキ、秋に独特の香りがするキンモクセイ、まっすぐに成長するプラタナスの木を植えました。

説明しながら木を植える様子を見せてくれたペドロさん。11歳の娘さんも参加しました。

5つのグループで5本の木を協力して植えました。

このプログラムは総合学習の一環として、同校と森美術館のコラボレーションにより実施しました。4年生が「2分の1成人式」（20歳の半分となる10歳を祝う行事）を迎える記念の授業として、社会と命について考え、未来へとつなげるこの「植樹プログラム」が、総合学習としてふさわしいと受け止めてくださったのです。美術館と学校が連携し、ペドロ・レイエス作品が出展された展覧会主催者であるアート&ソサイエティ研究センター、土壌調査及び植樹に関する助言をしてくださった千葉大学の高橋輝昌氏、西武造園株式会社スタッフが協働して実現しました。

自分たちと一緒に大きくなる木。未来を想像しながら植えました。

森美術館では、社会との関わりを一層広げながら、新しい視点で学びの場を創出するラーニングをスタートさせましたが、美術館の外に出て、様々な人と関わりながらプログラムを実現できたことは大きな成果となりました。子どもたちが10年後、20年後も笄小学校の校庭を訪ね、自分たちの手で植えた木の成長を見に来てくれることを願っています。また、今後も森美術館では、様々なラーニングを実施していきます。ぜひご期待ください。

【当日の様子はYouTubeでご覧いただけます。】

＊ペドロ・レイエス氏の作品と植樹プログラムの様子は、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展：社会を動かすアートの新潮流」（2017年2月18日―3月5日、会場：アーツ千代田3331）に展示されました。

文：白濱恵里子（森美術館アソシエイト・ラーニング・キュレーター）
撮影：御厨慎一郎
　

森美術館公式ブログ

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