タラ・マダニは、イランと米国という2つの文化的背景を持ち、急速なグローバル化が進む現代社会を批評する風刺的な作風で国際的に活躍しています。本展では、新作を含む絵画と映像作品を日本で初めて紹介します。
マダニの作品には、下腹が出て頭髪が薄くなった中年男性がしばしば登場します。子どもじみたふるまいや、邪険に扱われるその姿は、男性優位社会の危機を示唆しているかのようです。また「くそママ」シリーズ(2019年~)では、排泄物でできた母親と戯れる赤ん坊が登場し、典型的な母と子のイメージを破壊します。他にも、モダニズムを表象するグリッド、権力構造や集団心理が生み出す暴力、人間の動物的本能など、いずれのイメージも西欧中心主義的な社会への痛烈な皮肉と捉えることができます。
合理主義的な規範から逸脱する人間の根源的な本質に光を当て、わたしたちの倫理観に鋭く切り込む作品群は、多文化主義が唱える他者への寛容性について、あらためて考えるきっかけとなるでしょう。
タラ・マダニ
1981年テヘラン生まれ。シンガポール・ビエンナーレ2011、第54回ベネチア・ビエンナーレ(2011年)、台北ビエンナーレ2014、ホイットニー・ビエンナーレ2017、第16回イスタンブール・ビエンナーレ(2019年)に参加。アムステルダム市立美術館(2011年)、ストックホルム近代美術館(2013年)、ポルティクス(フランクフルト、2019年)にて個展を開催するなど、ロサンゼルスを拠点に国際的に活動している。2019年11月~2020年1月はウィーン分離派会館、2020年にはロサンゼルス現代美術館にて個展を開催予定。