出展作家
- やなぎみわ
- 小谷元彦
- ユ・スンホ
- 名和晃平
俗世を離れた山水画のような大自然のなかで、不老不死の仙人が住むとされる仙境は、古来、理想郷の1つとされてきました。桃源郷、極楽、浄土、ユートピアといった概念にも近いといえるでしょう。コロナ禍以降は、都市空間から離れ、自然環境のなかで暮らすことも見直されていますが、その源流にはこうした理想郷への憧れがあるのかもしれません。本展では、私たちを仙境へと誘う4名のアーティストによる作品を紹介します。
ユ・スンホの山水図は中国の老荘思想を表現していますが、よく見ると極小の「多多」による集積で描かれています。擬声語かサインのような単語はグラフィティのようにも見え、同じ文字を繰り返し書くことは文字の練習やある種の修行のようでもあります。名和晃平の《PixCell-Kannon #7》は、インターネットを介して収集された観音像を透明の球体(セル)で覆うことで、モニター上に分割されたピクセルで映し出されるイメージの質感を表現したものです。仏教の信仰対象でありながら、商品となり得るという意味でも、この観音像は浄土と俗世を繋ぐ存在だといえるでしょう。また、小谷元彦の《ホロウ:全ての人の脳内を駆け抜けるもの》では、力や純潔の象徴であるユニコーンと少女が地上の重力から自由になり、亡霊のように浮遊しています。やなぎみわの《The Three Fates》では、若い妖精と年老いた妖精の写真が併置されます。若い妖精が老いたのか、年老いた妖精が若返ったのかは定かではありません。不老不死の仙人が住む桃源郷では、時間と共に進む老いや劣化という地球上の自然の節理からも、自由でいられると考えられます。
さまざまなアーティストの作品を通して、現世から解放された自由な世界について想像してみましょう。
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《多多》
2005-2006年
インク、紙
244×164 cm
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《PixCell-Kannon#7》
2010年
ミクスト・メディア
100×55×55 cm
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《ホロウ:全ての人の脳内を駆け抜けるもの》
2010年
FRP、ウレタンほか
240×80×430 cm
展示風景:「小谷元彦展:幽体の知覚」森美術館(東京)2010年
撮影:木奥惠三
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《The Three Fates》
2008年
デジタルプリント
147×105 cm(各、2点組)
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《The Three Fates》
2008年
デジタルプリント
147×105 cm(各、2点組)