アイ・ウェイウェイはアーティストとしてだけでなく、思想家、活動家、建築家として幅広い活動を行う。詩人である父親のアイ・チン（艾青）が労働改造や文化大革命（1966-1976）の影響で新疆ウイグル自治区に下放されていたため、大学に入るまでは困窮した生活を送る。1981年に渡米、ニューヨークで現代美術を学び、アーティストとしての活動を開始する。1993年に帰国し北京の草場地にスタジオを構え、建築プロジェクトや展覧会のキュレーション、出版などを通じて、中国における現代アートの振興に尽力。森美術館では、2009年に作家にとって初となる網羅的な個展「アイ・ウェイウェイ展：何に因って？」を開催、同展はその後北米5館に巡回した。以降、世界の主要な美術館で個展を行い、数多くのグループ展や国際展に出品している。

《漢時代の壷を落とす》の3点の写真にはアーティスト自身が2000年前のものとされる漢時代（紀元前206-220）の壺を落として床で割る一連の動作が写されている。当初はカメラの連写機能を試すために思い付きで撮影しただけの、意味のない行為だったというが、北京に戻ってから徐々にアート制作を再開する契機となった作品のひとつである。
本作には、伝統的な価値を壊し、新しい価値を生み出そうとするアーティストとしての姿勢が見られるが、文化財の破壊行為であるという批判もある。他方、中国では文化大革命において多くの文化財が破壊された過去があり、本作は時の権力によって文化遺産の価値や歴史の重要性が変えられ得るという、価値創造と権力の構造的な影響関係への批判として読み解くこともできる。
こうしたセンセーショナルな行為や、ときには暴力的で過激とも言える表現を通して、アイは、国家権力の問題や社会的課題へと人々の目を向けさせ、積極的な議論を促してきた。そうした姿勢が彼の作品群に一貫した強度を与えている。