展覧会のための打ち合わせで来日中のハルシャから、子どもたちを対象に「東京の夜」をテーマにしたワークショップ案を聞いたのは2016年秋。アーティストにとってもはじめて実施するプロジェクトであり、美術館スタッフにとっても、夜の屋外でワークショップを行うのはほぼ初めての試みでした。銀座や新宿、六本木などの夜でも明るく、たくさんの人が行き交う東京の街は、ハルシャにとってとても印象的だったようです。企画はハルシャとの何回かの意見交換するなかで具体化していきました。
夜を描くポイントを実例を示しながら説明するハルシャ
2017年4月22日、23日の開催当日。参加者のなかには東京以外の遠くの県から参加してくれた親子もいました。ワークショップのメインアクティビティは、あこがれのヒーローに変身して夜の街にくりだし、真黒な画用紙に光を手掛かりに夜の街を描くこと。1日目は、インド、マイスールからこのワークショップのために再来日したハルシャの挨拶からはじまり、夜を描くときのポイントとして「光の反射」「光のまたたき」についてハルシャ自らが実例を示しながら説明しました。参加者たちはそのポイントをたよりに、夜の風景を見る疑似体験を行いました。後半は、ハルシャと一緒に展覧会を鑑賞。2000人以上の人たちが描かれた作品《ここに演説をしに来て》やハルシャが子どもの頃に描いたドローイング、193台の足踏みミシンが使われた《ネイションズ(国家)》など、子どもたちは展示されている作品に興味津々。みんなでハルシャの作品世界を旅しました。明日の夜はいよいよ六本木の街に飛び出します。
展覧会を鑑賞する子どもたち
2日目、子どもたちはどんなヒーローに変身したのでしょう。アニメや漫画のヒーローのほかに、「勉強を教えてくれる尊敬するお父さん」、「料理が上手な大好きなお母さん」に変身した子もいました。変身した子どもたちはどこか得意げな表情です。4月末とは思えない生憎の寒さのなか、ヒーローに変身した子どもたちは元気に出発です。人通りも多く、店舗の光が煌煌と輝く六本木ヒルズの夜に子どもたちは溶け込み、静かに街の様子をスケッチします。光を手掛かりに見てみると普段はあまり意識して見ていない夜の街のなかにたくさんの発見がありました。憧れのお母さんやお父さん、大好きなアニメのヒーローに変身していつもとは違う自分になり、いつもよりちょっぴりお話好きになった子どもたちは最後にみんなで自分たちの作品を誇らしげに発表して終わりました。
夜の街へくりだす前にヒーローに変身
光を手掛かりに夜の街をスケッチ
ワークショップの参加者
ハルシャはこのワークショップを通して、どんなヒーローになりたいかを親子で対話すること、そして光を見つけるまなざしを大切にしたいと語っていました。子どもたちはこれからの人生でさまざまな試練や苦しみなどの闇の中を生き抜いていく主人公、いわばヒーローになる。闇の中でも戦っていけるヒーローを自分の中に見つけ、希望という光を見つけたくましく生き抜いていく。このワークショップにはそんなメッセージが隠されてもいるのです。
子どもたちの持つ可能性にいつも強い関心を持っているハルシャの新しいワークショップの様子は動画でもご覧いただけます。「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」は6月11日(日)まで開催中です。お見逃しなく。
【ワークショップの動画はYouTubeでご覧いただけます。】
文:白木栄世(森美術館アソシエイト・ラーニング・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
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会期:2017年2月4日(土)-2017年6月11日(日)