2015年11月7日(土)から9日(月)、国立新美術館、六本木アカデミーヒルズを会場に「CIMAM 2015年次総会東京大会」が開催されました。 今回この国際会議の実施にあたり、森美術館は事務局として携わりました。
CIMAMの2015年次総会が東京で開催
CIMAM(International Committee for Museums and Collections of Modern Art;国際美術館会議)は、世界の近現代美術館に関わる専門家によって構成される会員制団体として、1962年に創設されました。現在は63カ国、460名の会員がいます。CIMAMはさらに大きな国際組織ICOM(International Council of Museums;国際博物館会議)の傘下で、その国際委員会のひとつとして活動してきましたが、現在はICOM提携組織(Affiliated Organization)としてバルセロナに事務局を置いています。ちなみにICOMは世界137の国と地域から約3万人の博物館専門家によって組織されており、ユネスコとも協力関係にあります。また、2019年には京都でICOM総会開催が予定されています。
CIMAMは、2014~2016年期は会長を務めるバルトメオ・マリのほか、世界各地から選出された10名程度の理事が運営を行っています。森美術館のチーフ・キュレーター片岡真実も今期の理事の一人です。
CIMAMの活動の中心的事業として年次総会が毎年開催されていますが、欧米中心の専門家による協議の場であったものから、1990年代以降はグローバルに拡大しつつあり、1994年にはアジア初のCIMAM年次総会が東京で開催されました。その後のアジア開催は、2004年のソウル、2010年の上海。今回の東京大会は、21年ぶりの日本開催となりました。年次総会としては第47回目となります。
今回の東京大会開催については、日本の美術界全体として大会を歓迎するため、実行委員会を結成し、CIMAM本部、文化庁、との共催という形を取りました。※1
3日間のカンファレンス:世界50カ国から、260名が参加
世界各地の美術館館長、チーフ・キュレーター等を中心に近現代美術館のガバナンス、マネージメント、プログラミングに関する議論が3日間を通して行われました。世界50カ国から、260名が参加(うち国内からの参加は100名程度)しました。海外からの参加者だけでなく、日本国内の美術館館長、学芸員、関係者等多くが一堂に会する貴重な3日間となりました。
初日の基調講演に登壇したパトリシア・ファルギーイエレス(社会科学高等研究院教授[EHESS]、
フランス国立造形芸術センター理事[CNAP]、パリ、フランス)氏
第1日目は、国立新美術館を会場に行われました。
全体テーマ「美術館はいかにグローバルになれるのか?」のもと、3日間の各セッションでは、「1.美術館はいまだに議論の場なのか?」、「2.モダニズムはいかにグローバルに受容されてきたのか」、「3.グローバル・オーディエンスはいるのか?」という個別テーマに基づき、基調講演、プレゼンテーション、パネル・ディスカッションが実施されました。こうしたテーマの背景には、世界各地で「近現代美術館」という制度が浸透しつつあるなか、実際には、国立、公立、私立の差異もあり、各国の政治的、経済的な環境、さらには文化的、宗教的な環境も異なるなかで、「近現代美術館」として世界共通の定義や価値観などはいまだに存在しうるのだろうか、という疑問がありました。政治的緊張状態やソーシャル・メディアの発展とともに危ぶまれている表現の自由と検閲の関係、危機管理、美術館で紹介する美術史のあり方、新しく拡大する観客との関係など、今日の美術館が抱えている課題は、グローバルに通底していながら、個別にはこうした国際会議での議論をそれぞれの文脈に照らして再考することが求められています。
世界中から美術の専門家が集まり、議論が続きます。
会場のひとつ「六本木アカデミーヒルズ」にて。
各日のディスカッションの後には、国立新美術館、森美術館、東京都現代美術館、原美術館、東京国立近代美術館をそれぞれ訪問・鑑賞し、原美術館では杉本博司氏のプロデュースによる素囃子のパフォーマンスも見ることができました。
参加者の方々は連日朝からカンファレンス、各美術館の訪問・鑑賞からディナーまで内容の濃い3日間を一緒に過ごし、各国、各地域のプロフェッショナルが親交を深めるまたとない機会となりました。
森美術館では開催中の「村上隆の五百羅漢図展」を観覧
レセプションの様子
さらに、11月10日~11日にポスト・カンファレンス・ツアー(直島、豊島、広島)を実施。定員満席の52名の参加で、豊島横尾館、豊島美術館、家プロジェクト、地中美術館、李禹煥美術館、原爆資料館、広島市現代美術館を見学し、東京とはまた異なる日本のアートシーンを体感していただきました。国内外の参加者からは、「会議は大成功」、「ディスカッションの内容が刺激的なだけでなく、登壇者の国際的なバランスやプログラム全体の構成も大変すばらしい」との声をたくさんいただきました。
こうした国際会議を東京で開催することは、世界の近現代美術館のプロフェッショナルに日本のアートシーンを体験してもらう貴重な機会であり、また日本国内の美術関係者も「こうした国際会議は刺激的で、閉塞的な日本の美術館には大変意義があります」と評価していました。
今回のCIMAM2015東京大会は、2016年3月に「記録集」(日本語のみ)の刊行を予定しています。カンファレンスの詳しい内容については、こちらをお待ちください。
※1 CIMAM[国際近現代美術館会議]2015年次総会東京大会実行委員会
委員長 | 青木 保 | ICOM日本委員会委員長、国立新美術館長 |
副委員長 | 南條史生 | 森美術館長 |
委員 | 原 俊夫 | 原美術館長 |
委員 | 酒井忠康 | 美術館連絡協議会理事長、世田谷美術館長 |
委員 | 建畠 晢 | 全国美術館会議会長、埼玉県立近代美術館長 |
委員 | 松本 透 | 東京国立近代美術館副館長 |
委員 | 高嶋達佳 | 東京都現代美術館館長 |
委員 | 福武總一郎 | ベネッセホールディングス最高顧問、福武財団理事長 |
文:高島純佳(森美術館 パブリックプログラム)
撮影:御厨慎一郎
<関連リンク>