森美術館はこれまで、ファミリープログラムとして「おやこでアート」や「こどもツアー」など、小学生以下の子どもたちを対象にしたプログラムを行ってきましたが、「ディン・Q・レ展:明日への記憶」(会期:2015年7月25日[土]-2015年10月12日[月・祝])では、初めて中高生を対象とした全3回のプログラムとして実施しました。また、時を同じくしてアジアを代表する中国人アーティストの個展「蔡國強展:帰去来(ききょらい)」を開催した横浜美術館とコラボレーションしたことも初の試みです。
キュレーター荒木によるレクチャーの様子
森美術館での初回は、まずキュレーターの荒木がベトナムやディン・Q・レという作家についての簡単なレクチャーを行い、その後3つのグループに分かれて作品を実際に鑑賞しました。私の担当したチームでは、有名な報道写真を50メートルに引き延ばして、滝のように天井から吊るした「巻物」シリーズを見て、「これは何?何でできているの?」という素朴な疑問を聞かせてくれたり、写真を実際に手にとって見ることのできる《抹消》を体験して、「この写真に写っている人たちは今どうしているんだろう」と、思いを巡らせてみたり。
実際に展覧会を鑑賞(左:「巻物」シリーズ、右:《抹消》にて)
鑑賞後のディスカッションでは様々な意見が出ました
2回目のプログラムでは、横浜美術館のグループの中高生から「蔡國強展」を紹介してもらい、一グループごとに「よかったところ」「あまりよくないとおもったところ」について話し合ってもらいました。プログラムの進め方にも様々な方法がありますが、横浜美術館ではできるだけ大人が介入せず、中高生たちに任せる、という方法がとられていました。最初は人見知りしてしまうのではないか、関係ない話で盛り上がっているのではないかと心配しましたが、自然とグループ内に自治のようなものが生まれ、最後にはきちんと発表までたどり着くことができ、とても良いムードが生まれていました。
横浜美術館でのプログラムの様子
最終回は、森美術館の中高生が横浜美術館の中高生たちに「ディン・Q・レ展」を紹介し、その後ディン・Q・レさん自身に直接質問をするというスペシャル企画です。ディンさんは「10歳のときに移民としてアメリカに渡ったので、ベトナムにいたころの写真はもう残っていないのだけど」と言ってアメリカに到着したディンさんとその家族が掲載された地方新聞のコピーを見せてくれました。ディンさんの穏やかな語り口にみんなもリラックス。準備中アーティストに会うことに緊張していた彼らも、いざ質問をする時間になると次々に手があがり、ディンさんもとても喜んでいました。「アートをみるときは、自分が共感できるところを見つけてみてください」というお話も、みんなの心にしっかりと届いたのではないかと思います。
アーティストと直接ふれあえるのも、現代美術の醍醐味です
その後、前日のトークセッション後にラップ・パフォーマンスを披露してくれた《バリケード》という作品のコラボレーターであるMCのアメさんが登場。彼らのために特別にラップを披露してくれました。これにはみんなも感動したようで、最後にディンさんが「もっとも好きだった作品はどれ?」と質問した際に《バリケード》という答えが多く返ってきました。
アメさんのパフォーマンスにみんな感激!
プログラムへの参加の理由は親にすすめられた人から美大を目指しているという高校生まで実に様々でしたが、これをきっかけに「展覧会を見る」だけでなく「見て、考えて、話す」楽しみを知ってもらえればと思いました。展覧会や作品には、「見かたの正解」はありません。自分の考えを、自分の言葉で表すのは大人でも難しいことですが、最初とまどっていた彼らも、少しずつ自分の感想や疑問を話してくれたことはとてもうれしく思いました。
また、今回はアーティストに実際に会うという特別な経験を通じて、アートを身近に感じてくれたのではないでしょうか。初めての試みということでスタッフにとっても挑戦でしたが、みずみずしい10代の感性に触れることができ、とても良い経験になりました。今後もこのようなプログラムを継続して実施できればと思います。
3日間おつかれさまでした!
文:熊倉晴子(森美術館アシスタント・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
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→前編
→後編
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・「ディン・Q・レ展:明日への記憶」
会期:2015年7月25日(土)-2015年10月12日(月)
・横浜美術館「蔡國強展:帰去来(ききょらい)」
会期:2015年7月11日(土)-2015年10月18日(日)