森美術館で開催中の「リー・ミンウェイとその関係展」の内容を紹介するブログ連載も第4回となりました。今回からは、リー・ミンウェイの制作の背景にある文脈を読み解くために併せて展示している他のアーティスト、宗教家、思想家の作品を紹介します。
白隠(1685~1768年)
《隻手》
江戸時代中期
掛幅 紙本墨画
42.5 × 50 cm
所蔵:久松真一記念館、岐阜
白隠は、江戸時代中期の禅僧です。臨済宗中興の祖と呼ばれ、いったん衰退していた臨済禅を、時代に即応した新たな宗派へと改革し、その84年にわたる長い生涯を民衆教化に捧げました。夥しい数の禅画や墨蹟を遺していますが、それらには多岐にわたる分野からの引用が用いられ、時としてその解釈は難解を極めます。《隻手》など、一見ユーモラスで軽妙、そして約300年前に描かれたとは思えぬほどの現代性をもった表現には、深く内包されたメッセージが込められています。
今北洪川(1816~1892年)
《円相》
明治時代
掛幅 紙本墨画
34.2 × 59.4 cm
所蔵:雲頂菴、神奈川
幕末・明治時代の禅僧。明治時代に入り廃仏毀釈など激動の時代に、禅の教化と一般普及につとめました。山岡鉄舟ら数々の明治の著名人も円覚寺管長であった洪川に参禅し、その中でも22歳の若き鈴木貞太郎が最晩年の洪川に参禅し、その後を継いだ釈宗演から「大拙」の道号を受けています。鈴木大拙はその縁で渡米し、英語での講演や著作を通して禅が「ZEN」として世界へ紹介され、新しい時代の始まりとなりました。《円相》は、仏性、森羅万象、宇宙を象徴するものであり、禅の心をひとつの形に表したものといわれます。
鈴木大拙(1870~1966年)
《無心》
明治~昭和時代
一幅 紙本墨書
33.1 × 64.8 cm
所蔵:東慶寺、神奈川
明治、大正、昭和時代の仏教学者、思想家。1897年、27歳でアメリカへ渡り、英語での仏教関連書籍の出版に携わる。12年間滞米し帰国後、大学で教鞭をとる一方、多数の著作を出版。約30冊にも及ぶ英文での著作をはじめ、80歳を目前に再度渡米し、以降9年間にわたり欧米各地で講演を行うことにより、禅が「ZEN 」として世界へ発信されました。1952 年から始まったコロンビア大学での講義は、ジョン・ケージらが聴講し、アート、音楽、文学など多岐にわたる分野のアーティストに影響を与えました。
<関連リンク>
・「リー・ミンウェイとその関係展」作品紹介
(1)関係性、つながり、あいだについて考える
(2)歩く、食べる、眠る―日々の営みを再考する
(3)パーソナルな記憶から歴史、文化、社会のつながりを考える
(4)「参照作品」を読み解く:白隠/今北洪川/鈴木大拙
(5)「参照作品」を読み解く:久松真一/イヴ・クライン/ジョン・ケージ
(6)「参照作品」を読み解く:李禹煥/アラン・カプロー/リクリット・ティラヴァニ
(7)「参照作品」を読み解く:小沢 剛/田中功起
・スペシャル対談:リー・ミンウェイ×片岡真実
(1)“参加するアート”とは?
(2)「ギフト」を贈ることもアートになる
(3)観客が参加することで、さらに豊かになるアート
・「リー・ミンウェイとその関係展:
参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる」
会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)
・「MAMプロジェクト022:ヤコブ・キルケゴール」
会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)