2010年11月16日(火)

「ネイチャー」とは文字通り、あらゆるものだと思う~「ネイチャー・センス展」を二度楽しむ、篠田太郎×片岡真実トーク(3)

篠田太郎さんの自然観、宇宙観はどのように作品に反映されているのか?「ネイチャー・センス展」の3つの出展作品のうち、映像作品《残響》についての話を中心に語られました。現在進行中の壮大な「月」のプロジェクトの話など、興味の尽きないMAMCメンバーズ・ギャザリング篠田太郎×片岡真実トーク、第3章です。(文・児島やよい)


トークを終えて参加者の輪に加わった篠田さん

人間の営みと自然界とを分けて考える時代ではなくなっている

片岡:「ネイチャー・センス展」の中でも、篠田さんの作品が自然の概念を最も抽象化しています。映像作品《残響》についても、自然の本質とは何かということを改めて考えさせられるような、私たちがより想像力を膨らませていかないとしっくりと来ないような作品だと思います。映像は「自然」と言いながら都市の風景と自然の風景が混ざっているのですが、都市の風景もしくは近代化された東京近郊の風景、それも自然の一部であるというような考え方を篠田さんから教えてもらいました。

篠田:ビデオの三部作に関していえば、まったくの自然というものはここにはないんです。森に見えるのも全部植林ですし、湖に見えるのも全部人造湖。全部、我々が介入しているものです。たとえば、三保の松原も、美しい自然だと我々は考えがちですけど、江戸時代にあの上に金山があった。金を掘った土砂が流出して下が人工的な砂浜になったんです。それを我々は今、美しい自然と捉えている。そう考えていくと、人間の営みと自然界とを分けて考えることすらもう時代的にナンセンスになってきている。それも含めて、我々がどういう方向性に行くのかを考え直さなければいけない時代になっていると思うんですね。


食事の手を止めてトークに集中する参加者

片岡:今回の篠田さんの展示は、《忘却の模型》があり、その周りに映像作品がありますが、それはすなわち、作家の身体とそれを取り囲む外界との境界面の役割をしていて、その周りにまた《銀河》がある。身体から外界へ、そして宇宙へとつながっています。宇宙への関心、宇宙観みたいなものもこれからシリーズで、作品として展開していくんですね?最初に見せていただいた月の映像もそのひとつ。

篠田:自分で天体望遠鏡型のビデオカメラを手作りして、いろいろなところで月を撮影しています。東京からスタートしてイスタンブール、リムリック、ボストン、ローマ、ロサンジェルスの6都市です。月コレクターですね。同じひとつの月なんですけど、都市によって何となく空気の感じが違ったり、そういうことで月自体のそれぞれの表情がある。でも、ぼくが見たいものはそれとは逆のことなんです。月に我々が見られていると仮定した場合に、月は一日で地球の全世界を見ているわけですね。どういう天体を全世界は共有しているのか、ということを感じる為のメタファーとして月が登場している、そういうふうに考えています。

片岡:今も進行中、オンゴーイング・プロジェクトなんですね。東京で見せたことは?

篠田:ないです。撮影はしましたが。

片岡:それ見てみたいです。

篠田:いや、東京なんですけど、東京の都市を撮るために、木更津から撮ってます(笑)。天体望遠鏡で撮ってるので肉眼ではどこを撮ってるかわからないんです、画面上では月ですけど。たぶん近くに石油精製所かなんかがあって、それでライトがちかちかしています。現在、各都市ごとに街の風景と月の映像が3回繰り返されるよう編集しています。

片岡:天体望遠鏡は据え置きで撮影しているんですね。

篠田:そうです。だから編集としては切ってつなげるだけで、早回しはいっさいしていないです。皆さんこれを観て驚くのは月のスピードなんですけど、思ったより速く動く。逆に言えば、地球が回っているスピードでもあり我々が年を取っていくスピードでもあるといえます。(会場笑い)

片岡:短い時間で篠田さんの最初期の作品から最近の作品まで見せていただきました。
私自身、篠田さんの作品の醍醐味を10年以上かけて少しずつ味わっている感じです。彼はすごく壮大な視点で、自分の身体から宇宙全体を見つめる中で、人間の存在についていろんな角度で考えている人ですから、まだまだ研究しがいがある。今後も、私たちがいつも意識をしていない宇宙とか人類について、どんな作品を通して見せてくれるのかなと期待しています。
最後に、篠田さんにとってネイチャーとはどんなものですか?

篠田:むずかしい質問です。自然とはあらゆるものだと思ってるんですけど、科学雑誌で『ネイチャー』ってありますね。科学なのになぜネイチャーという名前なのか、と子どもの頃思いました。でも今は、科学というのは自然、ネイチャーを知る方法論だと思うんです。そう考えると、我々がまだまだ知らないネイチャーっていっぱいあるし、身近なところにもある。そして我々自身がネイチャーを作りつつある存在であるともいえます。そうなったときに、もうこれは自然とはいえないからおしまいだ、というのではなく、ネイチャーとはすべてである、と思えば、限りがあるものではないですよね。

片岡:とても観察しがいのある作品、いろんなことを考えさせてくれるような作品を作っている篠田さんです。今後もずっと発展を見ていきたいと思いますが、皆さんもぜひ一緒に見守っていただけると嬉しいなと思います。今日はどうもありがとうございました。


篠田太郎の独特な語り口に引き込まれ・・・

撮影:御厨慎一郎

【児島やよい プロフィール】
フリーランス・キュレーター、ライター。慶応義塾大学、明治学院大学非常勤講師。「草間彌生 クサマトリックス」展に企画協力。「ネオテニー・ジャパン--高橋コレクション」展(上野の森美術館他巡回)等のキュレーションを手がける。
 

<関連リンク>
・連載対談:「ネイチャー・センス展」を二度楽しむ、篠田太郎×片岡真実トーク
第1章 造園からアートへ。「ポータブルな庭をつくりたい」
第2章 「自然の庭」を探す旅での出会い、不思議な体験とは?
第3章 「ネイチャー」とは文字通り、あらゆるものだと思う

「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」

会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)

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カテゴリー:03.活動レポート
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