2016年5月27日(金)

アーティスト×キュレーターによるセッション
「六本木クロッシング2016展」クロストークDay 2をレポート
~藤井光、佐々瞬、高山明、ミヤギフトシ、百瀬文、志村信裕、山城大督

「六本木クロッシング」参加アーティストとキュレーターの考えが交差する「クロストーク」。2016年3月27日にDay 2が開催され、7名のアーティストと2名のキュレーターがセッションを行ないました。

Day 2 リレートーク第3回

小澤慶介さん司会の今回 は、東京における「内なるアジア」に着目する高山明さんの紹介から始まりました。新作《バベル》では、2020年のオリンピックの建築現場に立つ外国人労働者の姿と、1964年のオリンピックの建築現場で働いた日本人男性がモニターに映し出されます。表舞台に現れない人々に焦点を当てながら、高山さんはふたつの巨大な国家プロジェクトを時代を超えて結びつけるのです。


高山 明さん


モデレーターの小澤慶介さん(キュレーター)


高山 明 《バベル》
2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年

歴史に新たな視点を加える試みを行う藤井光さんは、新作《帝国の教育制度》の中で、韓国の学生たちと実施したワークショップの映像と、1940年代にアメリカ軍が日本の教育制度を研究するために制作した記録映画を組み合わせています。


藤井 光 《帝国の教育制度》
2016年


藤井 光さん

佐々瞬さんは、雑誌『暮らしの手帖』の初代編集長であった花森安治からインスピレーションを受け、雑誌の読者を訪ねます。彼女たちに思い出の布で旗を作ってもらい、それを振る姿を映像に収めました。集団ではなく、自分自身のために振る旗の意味について考えさせられます。


佐々 瞬さん


佐々 瞬 《旗の行方》
2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年

高山さんが現代の東京という都市を起点に、藤井さんが歴史を通じてそれぞれ「アジア」を捉え直そうとする点に興味を覚えました。さらに「身体」の描写の重要さは3人に共通する特徴として浮かび上がります。オリンピックというスポーツの祭典で競いあう「コントロールできる身体」とは対照的な、演劇やアートにおける「統合されない」「ある種の不快な」身体感覚に、自分の身を任せる経験をしてもらいたいと語る高山さんの言葉が印象的でした。

Day 2 リレートーク第4回


森美術館キュレーターの荒木夏実(左)と山城大督さん(右)。

荒木が司会を務めたこの回では、4人のアーティストが登場しました。
山城大督さんの《トーキング・ライツ》は、普段動くはずのないモノが動き、時間軸とともに曖昧なストーリーが展開される「演劇的インスタレーション」です。5年前の東日本大震災の際に山城さん自身が感じた拠り所のない気持ちや、その後生まれた息子さんの成長を見ながら感じたことなどが制作のきっかけになったそうです。


山城大督《トーキング・ライツ》
2016年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年


山城大督さん

志村信裕さんの《見島牛(みしまうし))》は、山口県の見島で純粋な和牛として天然記念物に指定されている見島牛を、白黒の8mmフィルムで撮影した映像作品です。農耕用の牛たちと共に働いたかつての日々を、60代から80代の農家の人たちが生き生きと語っている声が重ねられています。機械化が進む以前の、共同体の中で暮らす人間と牛との関係が伝わってくる作品です。


志村信裕《見島牛》
2015年
展示風景:「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」森美術館、2016年


志村信裕さん

ミヤギフトシさんの《花の名前》は、ギリシャ神話の妖精、モーツァルトのオペラ、沖縄の米軍基地のドラァグ・クイーンなど、さまざまな要素が絡みあいながら展開していく映像作品です。ミヤギさんの出身地である沖縄とアメリカの複雑な政治や歴史に言及しつつも、男性同士の恋物語が作品に華やぎと希望を与えています。


ミヤギフトシ《花の名前》
2015年


ミヤギフトシさん

百瀬文さんは、誰にでも2人いる祖母の存在に着目し、彼女たちを概念的「双子」と捉えてインタビューを行います。映像のトリックによって肉体から切り離された声、語りから漏れ出てくる生々しい人間性など、映像のもつ危うさと魅力がその作品から伝わってきます。


《The Interview about Grandmothers》(2012-2016年)を背景にトークをする百瀬文さん


百瀬文さん

それぞれ印象の異なる4人の作品ですが、本展のテーマである「身体と声」に関して言えば、意外にも共通点が見られます。百瀬さんの作品において身体と声の分離が重要なテーマになっているのは明らかですが、山城さんの作品中の幼児や女子高生の声もまた、その主体があやふやです。志村さんの作品では、画面にひたすら映る牛のイメージとは対照的に、それについて語る老人の姿は見えず、聞こえてくるのは彼らの声だけです。そしてミヤギさんの作品におけるドラァグ・クイーンは、リップシンク(口パク)で歌っています。


左から、志村信裕さん、ミヤギフトシさん、百瀬文さん

他者の身体を借りて「代弁」させる。あるいは主体と声を切り離したり結びつけたりする。このような手法を巧みに用いて、アーティストたちは身体の枠組みをずらし、境界を超えようとしているように見えます。その先に、自己と他者との新たな関係と可能性が広がっているのではないか。そんな希望を感じさせる、発見の多いトークセッションになりました。


左から、佐々瞬、小澤慶介(キュレーター)、藤井光、高山明。


左から、志村信裕、ミヤギフトシ、百瀬文、荒木夏実(森美術館キュレーター)、山城大督。

文:荒木夏実(森美術館キュレーター)
撮影:永禮 賢(展示風景)、御厨慎一郎(イベント)
 

<関連リンク>

六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声
会期:2016年3月26日(土)-7月10日(日)

関連展示「MAMスクリーン003:交差する視点―海外アーティストたちが見た日本の風景」
会期:2016年3月26日(土)-7月10日(日)

アーティスト×キュレーターによるセッション
「六本木クロッシング2016展」クロストークDay 1をレポート
~毛利悠子、さわひらき、西原尚、ナイル・ケティング、ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダ、ジュン・ヤン

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