森美術館は、改修工事にともなう休館(2015年1月5日-4月24日)を経て、2015年4月25日(土)にリニューアルオープンします。
当館は開館以来、「現代性」と「国際性」を理念に掲げ、世界の多様な現代アートの動向を紹介する「企画展」と、世界各地の才能豊かな若手アーティストを応援する小型の個展「MAMプロジェクト」を並行して開催してきました。開館から10年余りたち、グローバルに拡がる現代アートの様相がますます複雑さを増すなか、多くの現代美術館は、さまざまな地域から生み出される作品固有の文化的、社会的、歴史的背景を、より多くの観客といかに共有できるか、という新しい課題に直面しています。
こうした状況を踏まえ、森美術館は施設の改修を機に、活動の機軸である「企画展」と従来の「MAMプロジェクト」に加え、新たに三つの小プログラム「MAMコレクション」「MAMスクリーン」「MAMリサーチ」を展開。展覧会プログラムの複層化を図ることによって、世界の現代アートをより多角的に体験する場へと生まれ変わります。
リニューアル後の展覧会ラインアップも決定。オープンを飾るのは「シンプルなかたち展」、そして「ディン・Q・レ展」が続きます。
■2015 年度企画展スケジュール
「シンプルなかたち展」
2015年4月25日(土)-7月5日(日)
作者不詳
《バードストーン》
制作年不明
粘板岩
4.8×10.2cm
アーレンベルグ・コレクション蔵、スイス
アンソニー・マッコール
《円錐を描く線2.0》
1973/2010年
映像インスタレーション
サイズ可変
近代の美術は、多数の単純で美しい美術作品を生み出しました。ヨーロッパでは19世紀から20世紀にかけて、数学、機械工学、生物学、地質学や考古学の探求の中で「シンプルなかたち」が再認識され、工業製品や建築のデザインなどに多大な影響を与えました。また、その品格ある魅力は多くのアーティスト達を魅了し、近代芸術の多数の名作に結実したのです。
一方、このような単純で美しい形は、自然の中や、多くの国の伝統文化の中にも見い出すことができます。石器やバードストーンなどのように、世界各地のプリミティブアートや民俗芸術の中にも多くの「シンプルなかたち」が登場します。日本においては工芸、茶道、禅画などに、同様の美学が体現されています。
本展では、このような「シンプルなかたち」について、地理的な広がりと歴史的なつながりを示しながら、ダイナミックで尖鋭な現代美術のインスタレーションもあわせて紹介し、これらに共通する時空を越えた普遍的な美を描き出します。
複雑化する現代社会において、飾らず、おごらず、原点に立ち返る「シンプルなかたち」は我々が生きる上で真の豊かさとは何かを問いかけてくれるのではないでしょうか。
※なお本展はポンピドゥー・センター・メッスで開催中の展覧会(会期:2014年6月13日-2015年1月5日)を、エルメス財団の支援によって日本に巡回し、森美術館が再構成するものです。
【出展予定作家】※姓のアルファベット順
ジャン・アルプ、カール・ブロスフェルト、コンスタンティン・ブランクーシ、ブラッサイ、マルク・クチュリエ、マルセル・デュシャン、アルブレヒト・デューラー、オラファー・エリアソン、ルチオ・フォンタナ、スザンナ・フリッチャー、エルスワース・ケリー、イヴ・クライン、クプカ(クプカ・フランティセック)、李禹煥、マン・レイ、エティエンヌ=ジュール・マレー、アンソニー・マッコール、ジョン・マックラッケン、パトリック・ヌー、バーネット・ニューマン、西川勝人、ナム・ジュン・パイク、アントワーヌ・ペヴスナー、エマニュエル・ソーニエ、ホセ・マリア・シシリア、エドワード・スタイケン、杉本博司、田中信行、ヴォルフガング・ティルマンス、蔡佳葳(ツァイ・チャウエイ)、ジェームス・タレル、グザビエ・ベイヤン
ウェブサイト:http://www.mori.art.museum/jp/exhibition/post_269.html
「ディン・Q・レ展」
2015年7月25日(土)-10月12日(月・祝)
《無題(ミラノ002)》(「ベトナムからハリウッドまで」シリーズより)
2004年
カラー写真、リネンテープ
97×183cm
1968年にカンボジアとの国境付近であるベトナムのハーティエンに生まれたディン・Q・レは、ポル・ポト派の侵攻を逃れるため、10歳の時、家族とともにアメリカに渡りました。写真とメディア・アートを学んだ後、ベトナムの伝統的なゴザの編み方から着想を得て、写真を裁断してタペストリー状に編む作品を制作し、一躍注目されました。この「フォト・ウィービング」シリーズは、べトナム戦争をはじめ、カンボジアの遺跡、ハリウッド映画など多様なイメージがぼんやりと浮かびあがり、作品を見る角度や立ち位置によって見え方が変化します。
また、レは綿密なリサーチとインタビューに基づき、個人が実体験として語る歴史に光を当てます。彼の名を世界的に知らしめた映像インスタレーション作品《農民とヘリコプター》(2006年)では、自作のヘリコプターの開発に挑むベトナム人男性を中心に、ベトナム人と戦争との複雑な関係を巧みに描きました。また前回のカッセル・ドクメンタ(ドイツ)における《光、そして信じること:ベトナム戦争からの声とスケッチ》(2012年)では、元従軍画家たちが当時描いた100点のドローイングと水彩画の展示とともに、戦場での彼らの青春を活き活きと蘇らせる映像作品を発表しています。
グローバル化が進み、価値観が多様化する現代の世界において、国家や社会の「公式な」歴史の陰で見落とされてきた、個々人の体験談から歴史を読み直すことが求められています。今最も活躍するアジアのアーティストの一人、ディン・Q・レの作品を通して、より親密で多様な世界の風景と歴史が見えてくるでしょう。
ウェブサイト:http://www.mori.art.museum/jp/exhibition/q.html
<関連リンク>
・〈速報〉2015年春、森美術館リニューアルオープン
(1)「シンプルなかたち展」「ディン・Q・レ展」開催決定
(2)新プログラム「MAMコレクション」「MAMスクリーン」「MAMリサーチ」
・改修工事にともなう一時休館のお知らせ
http://www.mori.art.museum/jp/info/access.html#a05
http://www.mori.art.museum/blog/2014/03/post-234.php