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キッズ・ワークショップ「レアンドロ展で"こども哲学"しよう」を開催しました!

2018.3.19(月)

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森美術館でこどもたちとの哲学対話ワークショップを初開催

2017年12月9日(土)、「レアンドロ・エルリッヒ展」関連プログラム、キッズ・ワークショップ「レアンドロ展で“こども哲学”しよう」を開催しました。集まってくれたのは小学校3年生から6年生の約25名。「こども哲学」は、難しい哲学の勉強ではありません。身の回りの物ごとに対して疑問を持ち、対話を通して自分なりに考えて言葉にしてみることや、一緒にいる他者の意見を聞いて、自分の考え方をさらに広げ、深めていく体験への挑戦です。本プログラムには、子どもたちとの哲学対話を学校や様々な場所で実践しているNPOおとな哲学こども哲学アーダコーダからファシリテーターとして井尻貴子さん、清水将吾さん、小川泰治さんをお招きしました。

ファシリテーターの小川泰治さん

ファシリテーターの小川泰治さん

最初に小川さんから、「こども哲学」についての説明がありました。「こども哲学」で行うことは、「問いを自分たちで考えること」、「話すこと」、「友達の意見を聞くこと」。今日のワークショップにはこうしたシンプルなルールがあることを皆で共有しました。

次に3グループに分かれて自己紹介を開始。話をする人はふわふわした毛糸玉で作られたコミュニティ・ボールを持って話し、次に話す人に手渡します。自分の名前や好きな食べ物、スポーツなどを話していくうちに少しずつ打ち解けていく子どもたち。ファシリテーターが、「普段の生活の中で『なんで?』って考えることある?」と問うと、「宇宙にはなんで空気はないの?」「空気はなんで透明なの?」「なんで人間はいるの?」「地獄と天国ってなんであるの?」「なんで戦争は起きるの?」「なんで人間だけ文明を築いたの?」…。次々に「問い」が生まれ、考えるためのウォーミングアップが充分にできました。

ファシリテーターの清水将吾さん

ファシリテーターの清水将吾さん

ファシリテーターの井尻貴子さん

ファシリテーターの井尻貴子さん

レアンドロ・エルリッヒ作品をきっかけに深まる対話の時間

いよいよ、「レアンドロ・エルリッヒ展」を観に会場へ。グループごとに鑑賞しながら、本プログラムの対話テーマとなる作品《教室》を、特に時間をかけて鑑賞しました。自分たちの姿が亡霊のように映り込む《教室》の中で、子どもたちは気づいたことを話し、疑問を投げることに夢中になりました。そのあとワークショップ会場に戻ると《教室》をめぐって様々な意見が交わされました。

《教室》ではみんな幽霊に?

《教室》ではみんな幽霊に?

作品を見たあと、みんなで意見交換

作品を見たあと、みんなで意見交換

あるグループでは最初、「怖い」「可哀そう」といった作品の第一印象を口にした子どもたち。ファシリテーターはそれで終わらせるのではなく、「どうしてそう思ったの?」と問いかけていきました。すると子どもたちは、さらに違った視点からの意見や疑問を口にし始め、対話は展開していき、「《教室》は自分の感情と照らし合わせてみることで完成する作品」、「普段の教室が明るいと思う人は暗いと感じるのでは?自分の教室が普通だという先入観ができているのでは?」などと作品の見方がより深まっていきました。

「なぜ透けて映るの?」「なぜ背景が廃校?」「何か伝えたいことがあるのでは?」という意見から、「廃校にいるのは幽霊では?」と、おかしくも真面目な「幽霊談義」が始まったグループでは、「自分に似ている幽霊が現れた」「向こう側の自分は本来の自分では?」「幽霊は怖いのか、おもしろいのか」などと途切れることなく対話が続きました。現実と非現実が交錯するかのような本作品を通して、廃校に映る自分たちを見ながらタイムスリップしたかのような気持ちを味わい、今の自分が感じていないことを、想像で感じることができるといった不思議な感覚を共有したようです。

《教室》以外の作品も鑑賞。《雲》の前で

《教室》以外の作品も鑑賞。《雲》の前で

迷路のような《試着室》では鏡に映る自分や友達に出会う

迷路のような《試着室》では鏡に映る自分や友達に出会う

《建物》に登ってはしゃぐ子どもたち

《建物》に登ってはしゃぐ子どもたち

子どもたちの言葉から――美術館で「哲学対話」をしてみて

本プログラムで発見したことなどを書き込んだ「ふりかえりシート」から、子どもたちの言葉を一部ご紹介しましょう。

・一つの問いでこれだけの考えに広がっていくとは思いもしなかった。
・はじめは、「あっ、ゆうれい」「おもしろいな」としか思いませんでした。でも、作者の言いたいことはなにかを考えるにつれて(略)、「私は~だと思うけど、あなたはどうですか?」と質問をしたいと思いました。これからも作品を見る時は「いろいろな問い」に答えながら見ていきたいと思いました。
・この作品は、最初から完成させて相手にうったえるのでなく、誰がどう見てどう感じたかによってできあがる。その人だけの作品になるのだと思った。
・作品をパッと見ただけで何か一つのテーマ、情景が浮かんでしまうのは、固定観念があるからだろうか。ものはその人の思い出、考え方によって見え方がまったく違う。見え方は違うけれど、一番もとの基本の考えは皆共通しているのかも?どんなものでも、先入観を持っていない人はすっと受け入れられるのだろうか?
・固定観念が打ち壊されたとき、その“もの”の本当の姿が見えるのではと思う。
・自分とは違う考え方と触れ合うことで、新しい自分の考えが生まれる。意見のぶつかり合いが大切なのでは?と思った。
・哲学をしていることは、勉強ではなくて、学びだと思う。勉強と学びは違うと思う。否定するとそこから話が進まない。
・今までは、美術館で見た時、こんなに謎(問い)をもちながら深く考えたことはなかったけど、今日、こうやって考えてみて、あらためて、「作品は、謎がいっぱいだなあ」と思いました。他の作品も、こうやって哲学してみたいです。

みんなの対話が続いていきます

みんなの対話が続いていきます

ワークショップの感想を発表してくれました

ワークショップの感想を発表してくれました

スケッチブックに書かれた個性あふれるコメント

スケッチブックに書かれた個性あふれるコメント

美術館での哲学対話を通して、子どもたちは他者とコミュニケーションを図りながら自分自身の考え方を広げ、新たなものにしていく体験を楽しんだことが伝わってきました。レアンドロ・エルリッヒは、目に見えるものをあたり前と信じ、既成概念にとらわれている現代人に真実とは何か、人間の本質とは何かを作品を通じて問いかけています。

本プログラムは、現代アートが我々の日常にある見逃しがちな「問い」に気づかせてくれるものであり、また、「哲学する」ための題材の宝庫でもあるということをあらためて実感しました。現代アートと向き合うことは、自分の思考を鍛錬することでもあり、他者の考えを受け入れることによって思考を拡張し、更新していくことなのではないか――それが鑑賞の楽しさとなり、美術館を楽しむ醍醐味の一つであるということを再認識することができました。

子どもたちは作品の意味を教えてもらうのではなく、作品をきっかけに自分の実体験や思いと結び付け、多くのことを主体的に考えました。現代アートと向き合う方法として新たな可能性を見出すことができたことも、本プログラムの成果であったと感じています。

集合写真

文:白濱恵里子(森美術館アソシエイト・ラーニング・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎

※ワークショップの記録映像公開中:

キッズ・ワークショップ「レアンドロ展で“こども哲学”しよう」スペシャル映像

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