即興演奏音楽史に影響を受けリサーチを行うカーティス・タム(1987年カリフォルニア生まれ)は、西洋的な知識体系に疑念を抱き、人間の定義について遊び心に満ちた命題を提示しています。近作では人間とそれ以外のものの自然災害に対する反応について研究しており、2017 年、2018 年と日本に滞在し、地震学者から地震波の性質を学んだほか、動物の地震予知能力を研究する科学者を取材しました。そのなかで鯰なまずに地震予知能力があるとされていることを知った作家は、江戸時代の風刺木版画、鯰絵を研究。一方で膨大な音源の収集も行い、サウンド・ライブラリーと称したこの音源集に、シャーマンの詠唱やセミの鳴き声、重さ数トンもの寺院の梵鐘の音などを加えました。また、作家自ら梵鐘の中にたたずみ、子宮のような空洞のなかで自身の体に音波がどのように作用するのかを体感しながら、共鳴する音波を録音するという実験的な試みも行っています。 本展の核となるサウンド・インスタレーションでは、梵鐘の胎内に見立てた空間へと鑑賞者を誘い、体の内部で深く音を聞く「ディープ・リスニング」という状態を体験させます。通常は雑音によりかき消されている音域の音を聞くことにより、鋭敏な感覚を持つ鯰になったかのような体験をし、私たちの感覚は刷新されることでしょう。
カーティス・タム
1987年カリフォルニア州生まれ。2015年、サントゼウム(ギリシャ、サントリーニ島)にて滞在制作を行い、島の新しいサイレン音を提案するプロジェクトを実施。2017年ロサンゼルス・カウンティ美術館アート&テクノロジー・ラボ・アワード受賞。「アーカスプロジェクト2017 いばらきアーティスト・イン・レジデンスプログラム」(茨城県守谷市)参加。