デイン・ミッチェル(1976年生まれ)は、不可視の領域におけるエネルギーや力学について、芸術的、科学的、歴史的な観点から多様なリサーチを行っています。そこでは視覚と嗅覚の関係性がしばしば意識されますが、不可視の領域や記憶の古層にわれわれの意識を誘う「香り」を、彼は重要な“彫刻的素材”として捉えています。本展では、伝統的な香の世界から香料の最新技術まで、日本滞在中の多角的なリサーチから生まれた新作《アイリス、アイリス、アイリス》を発表します。「アイリス(Iris)」という単語が、アヤメ属の植物、眼球の虹彩、カメラの絞り部分、ギリシャ神話の虹の女神イリスなどさまざまな意味を持つこと、線香が時計としての機能も担っていたこと、長年使われた道具などに付喪神(つくもがみ)が宿ることなど、多岐にわたる彼の関心がひとつのインスタレーションにまとめられます。日本の歴史や文化としての香りと、科学的な分子としての香りの双方が、私たちの認識や諸感覚に新たな刺激を与えてくれることでしょう。
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《アイリス、アイリス、アイリス》(部分)
2017年
デジタル・プリント、ハボタイ・シルク
130×140 cm
Courtesy: Hopkinson Mossman, Auckland & Christopher Grimes, Los Angeles
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撮影:デイン・ミッチェル
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画像提供:香老舗 松栄堂
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撮影: Babiche Martens
デイン・ミッチェル
1976年、ニュージーランド、オークランド市生まれ。2012年にオークランド工科大学にて哲学系修士号を取得。2009年から2010年は、ドイツ学術交流会(DAAD)の奨学金を受けてベルリン在住。シドニー・ビエンナーレ(2016年)、光州ビエンナーレ(2012年)、リバプール・ビエンナーレ(2012年)、シンガポール・ビエンナーレ(2011年)など数々の国際展に参加する傍ら、世界各地で個展を開催。オークランド在住。第58回ベネチア・ビエンナーレ(2019年)ニュージーランド代表。