セッション「現代アートを社会に開くーコレクターの視点から」 MAMCナイト

セッション「現代アートを社会に開く ー コレクターの視点から」

日 時: 2009年4月4日(土)14:00 - 15:30
出演者: フランチェスカ・フォン・ハプスブルク(ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団代表)、
ダニエラ・ジーマン(ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団チーフ・キュレーター)、
南條史生(森美術館館長)
モデレーター: 荒木夏実(森美術館キュレーター)

2002年にフランチェスカ・フォン・ハプスブルク氏によって創設されたティッセン・ボルネミッサ現代美術財団(T-B A21)。その活動についてフォン・ハプスブルク氏に話を伺った。同氏によれば、本展覧会出品作品でもあるジャネット・カーディフの《触ること》を購入しようとした際、アーティストに個人ではなく美術館などの公共機関に提供したいと言われたのがきっかけで、現在のような財団を創設したという。そして作品を所有するということは、それを展示し、公開し、普及し、保存していくことが必要だという考えに至った。
T-B A21の特色の一つとして、作品を購入するだけでなく、コミッション(制作依頼)するということが挙げられる。年に2〜4点ほどのコミッションを手がけ、建築、サイト・スペシフィック・アート、パフォーマンス、音の要素を有するプロジェクトなど多様な形式の作品制作を支援している。どのような結果になるか分からないコミッションだが、できる限り介入しないよう心がける一方、時には友人として励ましながらアーティストの側に立って共に新しい表現手法に挑戦している。T-B A21チーフ・キュレーターのダニエラ・ジーマン氏によれば、次のプロジェクトの決定も、アーティストと肩を並べて作業する中で偶発的に話が進み、彼女の言葉をそのまま借りるならば「有機的なプロセス」の中で実現していくのだと言う。
ディスカッションで「アートは社会を変えられると思いますか。」という問に対して、「できると確信しています。」と断言したフォン・ハプスブルク氏。作品を展示することでオーディエンスを誘い込みたいと言う。本展覧会についても、遊び心のある作品を多く選んでいるので楽しんでもらいたいとのこと。アーティスト、作品、そして展覧会に対して「愛情を注ぐ」という言葉を多用した両氏だが、これまでに築いてきた作品やアーティストとの親密な関係が印象的なセッションであった。


MAMCナイト

毎展覧会恒例のメンバーイベント「MAMCナイト」が2009年4月21日に行われました。
今回は「万華鏡の視覚」展キュレーター荒木夏実によるギャラリートーク「世界の新しい見方」と、南條館長によるスペシャルレクチャー「現代アートコレクションの未来を語る」の二本立て。
この日はあいにくの雨模様でしたが、多くのメンバーにご参加いただきいつも通りの賑やかな幕開けとなりました。

ギャラリートークの冒頭は、270本以上の蛍光灯で創られたケリス・ウィン・エヴァンスの作品が放つ強烈な光の渦。天井高が6メートルある展示室に合わせて作られた大型作品に思わず感嘆の声が上がります。
光や音を用いたインスタレーションやインタラクティブな作品が多く展示されている本展は、まさに万華鏡のように様々な手法で見る人を幻惑します。荒木の解説では、作家が作品に込めたコンセプトやメッセージと共に、作品を通して新しい視点を見出すための多くのヒントが提示され、特にクラウス・ウェーバーの作品「LSDホールの噴水」で「公共性」と「排他性」が共存する皮肉な現実について語られると、大きく頷くメンバーの姿が多く見られました。
展覧会の最後を締めくくるリテュ・サリン&テンジン・ソナムによる映像作品「人間の存在に関する問答」では、格闘技のように激しい問答を繰り広げる修行僧の姿に目を奪われ、ギャラリートーク終了後も殆どのメンバーがその場を離れずに最後まで作品を見届けていました。

続いてスペシャルレクチャー「現代アートコレクションの未来を語る」がスタート。「万華鏡の視覚」展は、フランチェスカ・フォン・ハプスブルク氏によるコレクションから作品を集めていますが、素晴らしい作品を持つ個人コレクターは世界中にいます。このレクチャーでは南條館長がかつて訪れた個人コレクターの邸宅に展示された作品などを中心に、秘蔵映像の数々が披露されました。一体どこから運び込んだのか想像もつかないほど大規模なインスタレーションを自宅に所蔵している人や、中国のアートに焦点を絞ってコレクションしている人など、その収集基準は様々ですが、一様に言えるのは作品を設置する環境にまでこだわる事が出来て始めて「一流のコレクター」と言われるようになるということ。コレクションが充実してくると、今度はそれらを展観させるための美術館まで作ってしまう人もいて、財力も然ることながらそのスケールの大きさにはただ驚愕するばかり。スライドの後半では南條館長の自宅に飾られた作品なども紹介され、あちこちから憧れのため息が洩れていました。館長が「今までにアート作品を買った経験のある方は?」と問いかけると会場の半数程度の人が手を上げました。もしかするとMAMCメンバーの中からもコレクターとして頭角を現す人が出現するかもしれません。

いつものMAMCナイトならここで終了ですが、今回はサプライズが待っていました!
実はこの日は、南條館長の還暦のお誕生日。(南條館長が身につけていた赤いチェックのスカーフとネクタイは、イベント直前にスタッフからプレゼントされたもの!)そこで南條館長からいつも美術館を支えてくださっているメンバーへ日ごろの感謝を込めて、ウィーンから届いた「シュロス・シェーンブルン(シェーンブルン宮殿)」という白ワインが振る舞われました。ワイン片手の和やかな歓談のうちに今回のMAMCナイトは終了。
悪天候の中お集まりいただきました皆様、本当にありがとうございました。
次回のMAMCナイトでも皆様にお会いできるのをスタッフ一同楽しみにしております。
眩い光に目を細めながら作品鑑賞
カールステン・フラーの世界を体験
「公共性の中に潜む排他性」を表現した作品に大きくうなずくメンバー
南條館長が世界のプライベートコレクションを紹介
館長の赤いスカーフとネクタイの理由は・・・

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