出演者:
福武總一郎(株式会社ベネッセコーポレーション代表取締役会長 兼 CEO)、ジャン=クリストフ・アマン(UBSアートコレクション・アドヴァイザリーボード)、ペトラ・アレンズ(UBSアートコレクション・コレクションエグゼクティブ)、南條史生(森美術館館長)
タイムテーブル:
19:05 トーク 1:ペトラ・アレンズ
19:25 トーク 2:ジャン=クリストフ・アマン
19:45 トーク 3:福武總一郎
20:05 ディスカッション: ペトラ・アレンズ、ジャン=クリストフ・アマン、福武總一郎
モデレーター: 南條史生
20:45 質疑応答
シンポジウムは、現代アートに特化してブランディングしている企業の戦略を聞く貴重な機会となった。
「ブランドとは何か。信頼です」という切り口で始まった、UBSのアレンズ氏のトーク。顧客にアート・コレクターも多いUBSは、「アートに情熱をもっていることが、クライアントへの誠実さになる」と考えているという。続いてUBSのアマン氏は、「コレクションは各オフィスに飾られ、職場に誇りとモチベーションを与えている。それが、優秀な人材の確保にも貢献している」と語った。本展の展示室にはデスクやパソコンも設えられ、まるでオフィスのような空間になっているのは、そのためだ。また、「飾りではなく、世界を理解するためのもの」、「ほかの手法では伝えられないことを伝えることができるのがアートであり、それはクオリティです」という言葉が印象的だった。
ベネッセコーポレーションの福武氏は、「現代アートでお年寄りを元気にしたい。お年寄りは、将来の自分たちだから」という願いが着実に成果を上げていると、構想から20年ほど経ったという直島のプロジェクトを振り返った。先にアレンズ氏も、「UBSにとって未来、つまり次の世代が重要だから」現代アートをコレクションするのだと話しており、いわゆる美術館のコレクションとの違いは、こうした先見性にありそうだ。また、「経済は文化のしもべだ」という福武氏の信念が、日本社会に対する痛烈な批判として説得力をもっているのは、実践が伴っているからだともいえるだろう。
後半は、森美術館の南條氏を加えてのディスカッションとなり、ふたつの企業コレクションの違いが明確になった。たとえば、UBSのアートコレクションは、アドヴァイザリーボードが決定しているが、ベネッセコーポレーションの場合はCEO、つまり福武氏が決めている。「アートが主役ではなく、あくまで地域をよくしたい」から、直島の作品はサイトスペシフィックであり、UBSのようなコレクション展開催や作品の貸し出しができない、などのように。また、アマン氏は、「アートは魂の食べ物だ。これがなければ死んでしまう」と死んだふりをするなど、ひょうきんな面を披露。真剣な議論で盛り上がりながらも、会場はときに笑いに包まれた。
最後は、「コレクションをブランド力にするには、時間がかかる覚悟が必要」との福武氏の意見を受けて、「コレクションは、企業にもアートの側にもメリットがなければならない。それが、ブランドにとっての宝石になるのではないでしょうか」と南條氏が締めくくり、シンポジウムは終了した。
3月10日19:00 - 21:00
出演者:岡田聡(精神科医、コレクター)、高橋龍太郎(精神科医、コレクター)
3月16日14:00 - 16:00
出演者:西高辻信宏(太宰府天満宮権宮司)、宮津大輔(サラリーマン・コレクター)
展覧会「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」では、パブリックプログラムとして2度のレクチャーが開催された。展覧会の主旨にちなみ、現代アートのコレクターとして知られる方々が、ゲストとして2名ずつ登場。それぞれの作品収集に対する理念や情熱が浮き彫りとなり、興味深い話が聞けた。
この日の出演者は、ふたりとも精神科医という組み合わせ。「もともと絵描きになりたかった」岡田氏は、「自分の代わりにアートの世界でがんばっている人を応援したい」気持ちも、作品購入の動機のひとつだという。一方、「幼少時から切手や化石などの収集癖があった」高橋氏は、草間彌生の作品を買ったことから本格的にアートコレクションが始まったそうだ。
ふたりに共通するのは、それぞれ個人コレクターでありながら、積極的にコレクションを一般公開しているところだ。岡田氏はトーキョーワンダーサイトなどで個性的な展覧会を企画し、高橋氏は都内2ヶ所の展示専用スペースを立ち上げている。さらに高橋氏は、今夏から全国3ヶ所の美術館に巡回するコレクション展を準備中とのこと。各々のプレゼンテーションの時間では、具体的な展示風景の写真やビデオを見ながら、解説が加えられた。
「〈9.11〉のあと、世界とアートの関わりを考え直すべきではないかと思い、作品の公開を考えはじめた」と話を始めたのは、岡田氏。展覧会は、「専門家ではないからこそできる、アートシーンへのノイズの提供」なのだという。また、繰り返し述べられたのは、近代化に伴って排除されてきたという「魔術的(magical)」な表現へのこだわりであり、それは加藤泉、小出ナオキらによる紹介された作品からも十分にうかがえた。
高橋氏は、「作家と知り合いになりたいとは思わない。人間関係がコレクションに影響することを避けたいから」という。とはいえ、草間彌生、村上隆から期待の若手まで、紹介された収集作家は錚々たる顔ぶれ。各作家の代表作といえるような作品も多い。「高い志があるわけではない」としながらも、「私的な感情で集めた作品も、積もり積もれば量が質に転化する」との話には説得力があった。
この日の出演は、自称サラリーマン・コレクターの宮津氏と太宰府天満宮権宮司の西高辻氏。前回同様、簡単な質疑応答のあと、それぞれのプレゼンテーションとなった。
宮津氏は、練り込まれたプレゼンテーションで聴衆を楽しませた。まずは、美術遍歴を披露。文化勲章を受賞できるような日本画家や、画商を夢見た小学時代、魯山人に憧れた中学時代、ウォーホルで現代アートに開眼した高校時代を経て、就職後に収入と相談しながらの作品購入がスタートしたという。
さらに、「家をアートにしたい」との発想から始まった、多数のアーティストと関わりながら私邸を建てている「Dream House Project」を紹介。ドミニク・ゴンザレス=フォレステルが設計し、庭や壁紙をはじめ、邸内のあちこちにアーティストのアイディアや作品が生かされている。「コレクターとして、アーティストとなにかやりたい」という思いを実現させたひとつのかたちであろう。
続いて、太宰府の宣伝係と自称する西高辻氏は、ひととおり太宰府を概説してから、自身のアートとの関わり方について語った。そこにはふたつの柱があり、個人で好きな作品を集めることと、神社として関係していくことだという。
ひとつめの柱であるコレクションは、最新の現代アートと由緒ある古美術とを同じ部屋に飾るなどしながら楽しんでいる。曰く、「現代アートが、未来の古典になるかもしれない」。また、もうひとつの柱として、太宰府で日比野克彦など現代作家の展覧会を企画したり、滞在制作に招聘したりしてきた。その結果、地域との交流が深まり、地元のさらなる応援を得られるようになるなど、よい効果が現れているそうだ。
ふたりの試みは、いずれも現代アートの活用法として特色あるものといえるだろう。
現代アートのコレクターもさまざま。しかし、今回のふたつのレクチャーで印象的だったのは、それぞれの共通点だったかもしれない。たとえば、コレクションのほとんどは、日本人の若手作家の作品である。価格が上がる前だから買えるという経済的な理由もあるだろうが、同時代の表現に対する敬意が感じられた。さらにいえば、それが、日本の現代アートの状況をよくしたいという問題意識の高さにもつながっている。
なお、「ヒューマニティの比喩として」(岡田氏)、「精神性を高めるものだから」(高橋氏)、「自分に向き合って判断する機会だから」(宮津氏)、「物事の違った見方があることを知るから」(西高辻氏)と回答は各様だったが、「アートは心のためにあるか」との質問には全員が「YES」と答えた。