2015年8月26日(水)

語られることのなかった物語~ディン・Q・レ作品紹介#1
「フォト・ウィービング」シリーズ

ディン・Q・レは、祖国ベトナムの市井の人々の声に耳を傾け、作品にしてきました。 その作品は国際的に高く評価され、レはいま世界でもっとも活躍するアジアのアーティストのひとりです。本ブログでは6回にわたって、森美術館「ディン・Q・レ展:明日への記憶」に出展中の作品の一部をご紹介します。

《無題(パラマウント)》

一見平面作品ですが、近づいてみると、細く切った写真プリントがタペストリー状に編まれてできていることがわかります。映画『地獄の黙示録』の一場面、映画会社のロゴ、報道写真などを素材にして、様々なイメージが浮かびあがります。
ベトナム戦争終結後の1978年、国境を接するカンボジアの過激なポル・ポト派による侵攻から逃れるために、10歳で家族とともにアメリカに移民したディン・Q・レは、ベトナム戦争をテーマに作品を制作し続けてきました。本人の記憶、家族の話、そしてアメリカのメディアを通して得た情報が混在するさまが、「フォト・ウィービング」と呼ばれるこのシリーズの中に、複雑に編み込まれています。
皆さんもご自分の記憶について考えてみてください。はっきり覚えていること、おぼろげなイメージ、人から聞いた話などが編み合わさっていることに気づくのではないでしょうか。

文:荒木夏実(森美術館キュレーター)


《無題(パラマウント)》
2003年
Cプリント、リネンテープ
101.6×152.4cm
シャファー家蔵


展示風景:「ディン・Q・レ:明日への記憶」森美術館、2015年
撮影:永禮 賢
 

<関連リンク>

ディン・Q・レ展:明日への記憶
会期:2015年7月25日(土)-2015年10月12日(月)

・語られることのなかった物語~ディン・Q・レ作品紹介
(1)「フォト・ウィービング」シリーズ
(2)《農民とヘリコプター》
(3)《抹消》
(4)《南シナ海ピシュクン》
(5)《人生は演じること》
(6)《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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